風が止んだ。
《バル=ゾラン》の静寂の中、三つの影が並ぶ。
「じゃあ、あんたは……これからどうする?」
カーヴァの問いに、ヴォルグは答えなかった。
ただ、空を見上げる。
その眼差しは、もはや過去に縛られていない。
だが、過去を忘れてもいない。
リヴァが静かに言葉を継ぐ。
「“ 黒衣の男 ” が言っていた。 “ 次は ”と……俺たちは、知らず知らずのうちに何かに導かれている。」
「偶然じゃねぇな、あのタイミングで《バル=ゾラン》を指定したのも。」
ヴォルグが呟く。
「俺の過去を知っていた。……いや、もしかすると “ あいつら ” の意志が、俺をここへ呼んだのかもしれねぇ。」
リヴァとカーヴァが無言で視線を交わす。
「次の目的地は決まっているのか?」
「いや、だが…… “ 黒衣 ” が言っていた。 “ 焔はまだ消えていない ” と。」
ヴォルグは、崩れた塔の麓に膝をつく。手にした灰をすくい、風へ放つ。
「だったら、その焔がどこにあるのか――探しに行くだけだ。」
彼は立ち上がり、ゆっくりと振り返る。
「俺はもう “ 王の焔 ” じゃない。俺の焔は――俺が燃やす。」
その言葉に、リヴァが微笑む。
「なら、燃やしてみせろ。……この世界が何色に染まるか、見届けてやる。」
カーヴァは肩をすくめた。
「まったく……厄介なやつらだ。だが、面白くなってきた。」
三人の足音が、廃墟に鳴り響く。
風がまた吹き始め、空に残る灰を巻き上げる。
灰は、まるで祝福のように舞っていた。
――こうして、交わるはずのなかった三つの焔が、一つの道を歩み始める。
