ダークファンタジー「叛逆の導 - THE SIGIL REBELLION - 」小説サイト

ただの旅人として

朝靄が、灰色の大地をやわらかく包んでいた。
夜の焔はすでに鎮まり、空には淡く冷たい光が差し始めている。
その中心に、ヴォルグは静かに立っていた。
背には斧、足元には焼け跡の残る無言の大地。
だが、その歩みにはもはや迷いの影はなかった。

「……お前、本当に来るのか?」

リヴァの問いかけは穏やかだった。
その声には、もはや疑いも試すような色もない。
ただ、静かな確認。
ヴォルグはわずかに頷き、言葉を返す。

「俺は、焔を背負って生きていく。……なら、その先にあるもんを、この目で見届ける。」

カーヴァがふっと口元を緩めた。

「いい風が吹き始めたな。ようやく、旅の始まりってやつだ。」

ヴォルグは肩越しに空を仰ぐ。
雲の切れ間から射す一筋の光が、遠くの道を照らしていた。
まるで、それが進むべき方向だと告げるように。

「……あのとき斬ったのは、過去の俺だ。なら今の俺は……誰でもない、ただの旅人だ。」

リヴァが並んで立ち、言葉を重ねる。

「悪くない名だ。じゃあ、行こうか。風が止まる前に。」

三人はゆっくりと歩き出した。
焔を背負いし者。
風に導かれし者。
影を越え、光を示す者
その背に、静かに月が昇っていく。

――過去を悔やむのでもなく、
――未来を恐れるのでもなく、

ただ、自らの意志で道を選び、歩き出す者たちの長い旅が、今、始まった。

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